相続税申告(相続発生後)
相続税について相談する税理士の選び方
1 相続税と特徴
相続税は、個人の財産を次の世代に引き継ぐ際に課される税金であり、その計算や申告は非常に複雑です。
例えば、所得税の申告は、副業をしているサラリーマンといった人でも行う必要があり、さらに毎年申告する人も多く、単純に他の税金に比べ関係する人が多いです。
そのため、所得税のために発行されている書籍は多く、ネットで調べると情報も豊富で、所得税の申告を簡単に行うためのソフトも豊富です。
他方、相続税は、一定金額の財産がなければ申告する必要がないため、関わる人が所得税に比べて少なく、また、殆どは1回きり、多くて通常2回(父親と母親の相続)、なので知識経験が豊富な人というのが、税理士を除いて基本的にいません。
そのため、相続税について相談する税理士を選ぶことは非常に重要です。
税理士が 相続税を適切に計算し、法令に基づいて正確に申告するためには、専門知識及び経験が必要不可欠です。
しかし、年間の相続税の申告件数が13万件から14万件であるのに対し、税理士の人数は8万人以上いるので、単純計算で、税理士一人あたりの年間平均申告件数は、1件から2件程度であるため、税理士を選ぶことが相続税の申告において重要であることがわかります。
以下では、相続税に関する税理士の選び方について、説明します。
2 相続税の専門知識と経験があるかを確認する
まず、税理士を選ぶ際には、その税理士が相続税に関する豊富な知識と経験を持っているかどうかを確認することが重要です。
相続税は、所得税や法人税といったほとんどの税理士が多く関わる税務と異なり、相続財産の評価、特例の適用、遺産分割協議書の作成など、他の税務とは異なる専門的なスキルが求められます。
したがって、相続税の申告実績が豊富で、過去に同様のケースを多く手がけたことがある税理士を選ぶことで、安心して相談することができます。
3 税理士の資格と信頼性を確認する
税理士は国家資格であり、その資格を持つ者だけが税務相談や申告の代行を行うことができます。
しかし、中には資格を持たない「にせ税理士」なども存在するため、相談する際には、また遅くとも依頼前に必ず税理士の資格証明書を確認することが重要です。
また、税理士会に登録されているかどうかも確認するとよいでしょう。
税理士会のホームページで簡単に検索できます。
通常、税理士は、誠実な対応と高い倫理観を持って業務を行っていることが多いため、安心して依頼することができます。
4 コミュニケーション能力と対応力をチェックする
相続税の相談では、相続人が複数人いることが多く、その関係性もまちまちであるため、依頼者の個別の事情や希望をしっかりと理解してもらうことが重要です。
そのため、税理士のコミュニケーション能力や対応力が非常に重要です。
初回の相談時に、どれだけ依頼者の話に耳を傾け、適切なアドバイスを提供してくれるかを確認しましょう。
また、質問に対して分かりやすく説明してくれるか、報酬を明確に示してくれるか、どうかもポイントです。
相続税の手続きは長期にわたることが多いため、信頼できるかどうか、話しやすいかどうかという観点で、、コミュニケーションが取れる税理士を選ぶことが望ましいです。
5 料金体系の透明性
税理士に相続税の相談を依頼する際、料金体系が明確であるかどうかを確認することも重要です。
相続税の申告はケースによって手間や時間が異なるため、料金もそれに応じて変動します。
事前に見積もりを出してもらい、どのような業務にどれだけの費用がかかるのかを確認しましょう。
料金体系が明確でない場合、後になって予想以上の費用が発生する可能性もあるため、注意が必要です。
ただし、相談当初と異なる財産が出てくる等事情が変われば、報酬が変わる可能性は出てくるので、財産がある程度確定した段階で念の為税理士報酬の金額を確認することも重要です。
6 相続に関する他の専門家との連携ができるか
相続税の問題は、税金の計算だけでなく、法律や不動産など多岐にわたる分野が関係します。
そのため、弁護士、司法書士、不動産鑑定士など、他の専門家との連携が重要になるケースがあります。
税理士が上記の専門家と連携できるネットワークを持っているか、または、必要に応じて適切な専門家を紹介できるかを確認することが重要です。
さらに、理想的なのは一つの事務所に上記の専門家が揃っていることです。
一つの事務所で上記の専門家が揃っていれば必要に応じて密な連携を図ることができます。
これにより、総合的なサポートを受けることができ、相続に関するトラブルを未然に防ぐことができます。
7 依頼者のニーズに合った対応ができるか
最後に、自分のニーズに合った税理士を選ぶことが大切です。例えば、相続税の申告だけでなく、相続全体のプランニングや二次相続といった節税対策についても相談したい場合、その分野に強い税理士を選ぶと良いでしょう。
また、相続の問題が発生する前に事前対策を講じたい場合、そのようなサポートが得意な税理士を選ぶことも重要です。
相続税申告の流れ
1 相続税申告とは
被相続人が亡くなられた時点で一定額を超える財産を有していた場合には、相続税の申告を行う必要があります。
一定額を超える財産とは、基礎控除額(3000万円+相続人の数×600万円)を上回る財産です。
例えば相続人が2名の場合は、被相続人が4200万円を超える財産を有していた場合に、相続税の申告を行う必要があることとなります。
そして、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用してもなお、財産の総額が基礎控除額を上回る場合には、相続税の納付を行う必要もあります。
相続税の申告、納付については、相続が開始してから10か月以内に手続きを行う必要があります。
2 相続税申告の流れ
初めに「相続人の確定」の手続を行うことが必要です。
具体的には、親子相続であれば、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を取得し、相続人の現在戸籍を取得することになります。
兄弟相続等の場合には、上記に加えて親が亡くなっていることを示す戸籍等が必要ですし、代襲相続や数次相続の場合には取得する戸籍はさらに増えます。
相続人の確定をすることで、相続税の納税の必要性の有無が決まります。
次に、納税の対象となる「遺産の範囲の確定」をしたうえで、資料の収集をします。
ここでは、亡くなった時点での各遺産を評価する必要があります。
例えば預貯金であれば、亡くなった日の残高証明書が必要となります。
株式であれば、亡くなった日の終値や一定の期間における終値の平均額を確認します。
不動産であれば、路線価をベースにして画地修正(土地の個性に従い、減額加算要素を算定していく作業)をします。
また、施設の利用費、葬儀費用やお布施、納骨費用など、亡くなった方が支払うべき費用を相続人が立て替えた場合には、その領収書等を収集します。
死亡保険金や、亡くなる前3年以内の生前贈与等、相続財産とみなされる財産についても確認をします。
そして、各遺産について遺産分割協議書を作成し、分割方法を決定した上で、申告及び納税を行うことになります。
3 相続税の申告は税理士にご相談ください
上記の通り、相続税申告では、株式や土地の評価、控除できる債務の選別等、専門的な知見が必要な項目が数多くあります。
そのため、税理士に依頼せずに申告を行うと、誤った計算をしてしまったり、不当に多く税金を納める結果になったりすることが多々あります。
相続税申告が必要だと感じたら、まずは税理士に相談しましょう。
相続税の申告期限
1 相続税の申告期限
相続税の申告期限は、被相続人が「亡くなったことを知った日」から10か月です。
10か月以内に、相続税の申告書を提出し、かつ、納税する義務があります。
令和2年の10月10日に亡くなり、同日、亡くなったことを知った場合には令和3年10月10日が申告期限となります。
期限の日が土日祝の場合には、翌平日が申告期限となります。
郵送で提出する場合には、申告期限内の消印で郵送すれば期限内申告となります。
「亡くなったことを知った日」ですので、10月10日に亡くなっていても、知ったのが12月10日であれば、翌年の10月10日までに申告、納税すればOKです。
知った日が相続人によって異なるのであれば、相続人ごとに申告期限は異なることになります。
2 申告期限の延長はできないの?
申告期限を延長することはできません。遺産分割協議が整わなくても、10か月以内に必ず一度未分割申告を行い、申告と納税を済ませる必要があります。
未分割申告の際は、配偶者控除や小規模宅地等の特例が使えませんので、一度多額の納税が必要になるケースが多く、また、未分割申告時に分割見込書を提出しておかないと将来修正申告する際にも特例が使えなくなってしまいます。
複雑な点も多いかと思われますので、必ず税理士に相談しましょう。
3 申告義務者が相続税を申告する前に亡くなってしまった場合はどうするの?
申告義務者が相続税を申告する前に亡くなってしまった場合には、申告義務者の相続人が、申告、納税をする義務があります。
この申告、納税は、申告義務者を被相続人とする相続税申告とは異なりますので、注意が必要です。
かなり複雑な話ですので、以下で例を用いて説明いたします。
祖父Aが亡くなり、唯一の子Bが相続人でしたが、Bが申告をする前に亡くなってしまい、Bの妻CとBの子DとEが相続人だとします。
Aの遺産は1億円で、Bの遺産は8000万円です。
まず、CとDとEは、相続分に従って(国税通則法5条2項)、Aの相続税申告につきBに代わり申告と納税をしなければなりません。
この申告の際には、相続税申告書 第1表の付表1 納税義務等の承継に係る明細書(兼相続人の代表者指定届出書)を提出することになります。
納める税金については、相続人は一人(B)ですから、基礎控除を3600万円として一人が全額遺産を取得した前提で納税をする必要がありますので、1憶-3600万円=6400万円に税率を掛けた合計1220万円を相続分に応じて納税することになります。
次に、CDEは、Bの死亡により生じた相続税申告をしなければなりません。
この場合の遺産分割は、AとBの遺産の合計ついて、相続人が3人ですから、基礎控除を4800万円として計算をして、申告納税をすることになります。
納める相続税の総額は1憶8000万円-4800万円=1憶3200万円につき、妻分(1憶3200万円×2分の1=6600万円に税率を掛けた1280万)と子供2人分(1憶3200万円×4分の1=3300万円に税率を掛けた460万円の2人分920万円)の合計の2200万円になります。
Aの相続について1220万円の相続税を納めたのに、Bの相続で再度Aの遺産も含めた2200万円もの相続税を納めるとなると、2重払いになってしまうようにも見えますが、相次相続控除が使えますので、多くの場合、2度目に支払う相続税は少なくなります。
例えば、上記の例の2度目の相続で、Cが遺産の半分を受け取り、かつ配偶者控除を適用するのであれば、2度目に支払う相続税の総額は1100万円であり、一度目の相続で納めた1220万円以下ですから、相次相続控除で0になります。
(最初の相続の相続人が配偶者の場合で、そこで配偶者控除を使う場合には、一度目の相続の相続税が少なく、二度目の相続の相続税として多額の税額を納めるケースもあります)。
4 相続放棄と相続税申告の期限
相続放棄によって新たに相続人となった場合には、その時点で初めて相続人となったことを知ったわけですから、そこから10か月以内に申告をすれば良いことになります。
しかしながら、相続放棄と、申告義務者の死亡の時期が重なると、かなり複雑な状況が生まれてしまいます。
例えば、令和2年10月10日にAが亡くなり、その唯一の相続人であるBが令和3年の3月に相続放棄をしたとします。
Bが相続放棄をしたことで、Aの兄弟であるC,D、Fの3人が相続人になりましたが、Cは令和2年の12月30日に既に死亡していました。
この場合、Cの相続人はどのような申告をしなければならないでしょうか。
まず、令和3年の3月にBは相続放棄をしていますが、相続放棄には遡及効があり、遡って相続人ではなかったことになりますので、令和2年10月10日の時点から、C,D、Fは相続人であったことになってしまいます。
Cは令和2年12月に死亡していますから、令和3年に相続放棄した事情を知るわけはないのですが、Cは相続税申告義務があったのに申告をせずに死亡したことになってしまいますので、Cの相続人はAの相続について、Cの相続税申告義務、納税義務をCに代わり行うことになります。
では、Cの相続人はAの相続についていつまでに申告をすれば良いでしょうか?
もし仮にBが死亡していなければ、令和3年3月にCが相続放棄をした後になって初めて自らが相続人となったことを知ることになるので、どんなに早くても、令和4年1月がAの相続に関する相続税申告の期限となることになります。
しかしながら、Cの相続人はCについての相続税義務を負っており、その申告義務は令和3年の10月30日ですし、そのCの遺産の中には、Aの相続によりCが受け取る遺産もありますので、結局令和3年の10月30日までに、申告をする必要があることになります。
5 税理士にご相談ください。
このように、相続税申告の期限は、ケースによっては複雑になりえます。相続税申告期限を徒過してしまうと、延滞税や、特例の適用の有無の問題が出てきますので、はやめに相続税に詳しい税理士への相談が必要です。
税理士法人心では、相続事件を集中して取り扱っている税理士が相続税申告業務の対応をしています。お気軽にご相談ください。